Flying Skynyrdのブログ

映画や音楽、本についての雑文

『去年マリエンバートで』回想

今日は映画漬けの大学生生活の中から、今から約40数年前に観た、当時得意になって観ていた難解映画の極致とも思える作品の一つ、『去年マリエンバートで』について書いてみたいと思います。なぜかふと思い出しましたので。

監督:アラン・レネ

脚本:アラン・ロブ=グリエ

アラン・レネはフランスの映画監督で、『ゲルニカ』やアウシュヴィッツを描いた『夜と霧』といった短編のドキュメンタリー作品が多く、最初の長編映画が広島原爆を扱った『二十四時間の情事』で第2作目がこの『去年マリエンバートで』でした。

 

日本公開は1964年ということで当然私はその当時に観ることはできませんでしたし、映画に興味をもって盛んに洋画を観るようになってからも、この監督と映画の存在は知っていましたが、残念ながら観る機会はありませんでした。東京へ出てからも、当時どこの名画座でも上映していませんでした。東京へ出て1年程経ったある時、ある会館の特別上映会(昔はよく特別上映会というのを映画館以外で上映していました)で初めて観ることが出来ました。その時は内容などさっぱり理解できませんでしたが、待望の観られたということだけで充分満足でした。

内容はアラン・ロブ=グリエ芥川龍之介の「藪の中」にヒントを得たと言っています。「藪の中」と言えば、黒澤明の『羅生門』も同じ小説を題材にしています。

舞台はあるおおきな宮殿のようなホテルとその庭園です。

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ある男がある女に「私は去年あなたに合った」と言うが女は「知らない」という。この類の会話が延々と続き、時間は止まったり流れたり、画面も止まったりまた動き出したりと、そして同じナレーション(男の)が繰り返され、こちらの頭も混乱してきます。どうやら男の記憶では去年その女と恋仲になるが、女には夫がおり、その夫から一緒に逃げようということになったらしいが、女はそんなことは知らないという。しかしやがて女もその記憶の中に入り込み、夫も妻が男と付き合っている事実を知っているという。そして女は夫を捨て男とホテルから逃げ出すというような話です。

このように書いている自分もこんなストーリーが正しいのか間違っているのかはっきりわかりません。なにしろ40年以上前のことですから定かではありません、悪しからず。ただ記憶と現実、過去と現在、主観と客観、を時間という軸から場面場面を切り取ってつなぎ合わせていくというようなイメージを受けた記憶があります。これも記憶ですからすでに確かなものではないと思いますが。記憶とは何なのでしょうか、とふと考えてしまいます。当時の映画にはこのように現実と虚構、主観と客観など哲学的なテーマを取り扱ったものがおおかったような気がします。果たして自分の解釈が的を射たものなのかどうかは未だにわかりませんし、これからもわからないでしょう。また、正解などあるのかどうかもわかりません。文学でも映画でもその解釈は10人いたら10通りあると今では思えます。ただ当時はなんとしても正解にたどり着きたいという思いが強く、自分の理解力の低さを嘆くばかりでした。作者の意図したものは確かにあるはずなのですから、それを理解出来ないのは観る側の能力が低いのだと思い込んでいたのです。それでも難解な映画を観る醍醐味はやっぱりその映画を観て考え抜くということの楽しさだったのでしょう。歳を重ねるごとに、映画や小説などというものは自分なりに理解し、楽しめばいいのだという境地に至りました。これを成長というのか諦めというのかはわかりませんが、それでいいのだと今は納得しています。

この映画はまた白黒映画ですが映像の美しさと、構図の見事さに圧倒されます。上の写真の庭園も凄いですが、ホテル(宮殿)のなかの壁や天井の装飾、階段や廊下などシンメトリーの美しさというか幾何学的な美しさというか、圧倒的な迫力を感じた記憶があります(これも記憶ですが)。

ちなみにこの庭園はミュンヘンにあるニンフェンベルク城の裏庭で宮殿はアマーリエンブルク城ということらしいです。

そういえば『二十四時間の情事』の冒頭部分で日本人の男が外人の女に対し「君はヒロシマを見ていない」といい女は「私はヒロシマを見た」という会話が繰り広げられます。客観と主観の問題はこの映画にも取り上げられていました。

アラン・レネはこの後も『ミュリエル』『戦争は終わった』などの作品を発表していき、多くの映画賞を獲得します。

 

 

それと余談ですが映画の中でマッチ棒でゲームをする場面があるのですが、実際にそのゲームで友人たちと随分遊んだことがありました。これが実に面白いゲームなのです。

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マッチ棒を上の写真のように並べ、交互にマッチ棒を取っていき、最後の1本を取ったほうが負けです(逆に言えば最後に1本を残したほうが勝ち)。ルールは一度に何本のマッチ棒を取ってもいいのですが、列をまたがって取ってはいけません。これには必勝法が存在するそうです。映画の中で、女の夫はこのゲームで絶対に負けませんでした。

 たいして中身のない記事になってしまいましたが、書いている間、当時の風景がよみがえって来るようで楽しめました。

薄れていく記憶の中で、また何か思い出したら当時の映画の話を書こうかと思います。