今日のキネ旬シアターは『彼女がその名を知らない鳥たち』でした。
監督:白石 和彌
主演:蒼井優、阿部 サダヲ、松坂 桃李、竹野内 豊
制作:日本 2017年公開
原作:沼田まほかる
監督は『凶悪』を撮った人で、若松孝二の弟子です。
原作は今や真梨幸子、湊かなえなどと並んでイヤミスの女王と呼ばれる女流作家です。
この人の作品は、文庫本になっているものはすべて読んでいます。何故かイヤミスに嵌ってしまった頃に、真梨幸子などと共に夢中になって読みました。もちろんこの『彼女がその名を知らない鳥たち』も読んでいます。
ということでこの映画を観るのはちょっとためらいました。何故かというと、このての映画(推理、ミステリー等)は大体において原作には及ばないというのが私の長年の経験に基づく感想です。
それでもせっかく会員になっているので観てみるかと思い出かけました。結論から言うと、案の定危惧した通りでした。
まるで小説のダイジェスト版を観ているような気分になりました。これが原作を読んでいなければ結構楽しめたと思います。
ただ原作を先に読んでしまっていると、結末は判っていますので、あとはどのような色付けがなされているかということに興味が湧くのですが、原作に忠実すぎたのと、原作での登場人物の気色悪さが残念ながら映画では感じられませんでした。
ストーリーはさすがにミステリーなのでネタバレしない程度に書きます。
十和子(トワコ 蒼井優)は何の取柄もない、不潔で下品な男、陣治(ジンジ 阿部サダヲ)と同居生活を送っています。生活費はすべて陣治が負担し、十和子は何もせず悶々とした生活を送っています。
十和子は8年前に別れた恋人、黒崎(竹野内豊)のことが忘れられません。彼にもらった思い出の腕時計が故障してしまったので、百貨店内の時計店に修理するよう頼んでいますが、修理不可能と断られます。それでもなんだかんだでクレームをつけて店員を困らせています。
時計店の主任、水島(松坂桃李)がお詫びにと代わりの時計を持って訪ねてきます。彼に黒崎の面影を見出した十和子は一目惚れしてしまいます。そしてすぐに二人は深い関係になります。
夜の外出が増えた十和子に対し、陣治は心配して十和子の姉に相談します。姉は黒崎とのよりを戻したのかと問い詰めますが、陣治は「それはありえない」と強く否定します。姉はその返答に異和感を持ちます。
翌日、警察が十和子を訪ねます。黒崎が5年前から疾走して行方不明だというのです。十和子は驚き、黒崎の妻に会いに行きます。そこで、黒崎の妻の叔父に出会います。その叔父というのは、かつて黒崎に頼まれ身体を売った相手なのです。
黒崎には必ず結婚するから、この国枝という金持ちの老人と一度だけ寝てくれと頼まれたのです。止む無くその通りにした十和子でしたが、その後黒崎に国枝の姪と結婚するから別れてくれと言われます。つまり騙されていたのです。
十和子は妻になる女に全部ばらしてやると黒崎を脅しますが、逆に滅多打ちにされ重傷を負います。そのような過去があったので姉は黒崎とよりを戻すことを心配していたのです。
一方水島の身辺にも不思議な出来事が起こり始めます。水島は同居人の男があやしいと十和子に話します。十和子は陣治を問い詰めますが、逆に陣治はあの男に騙されているのだから、付き合うのは止めろと言います。そして「またえらいことになる」と訴えます。しかし十和子は言うことを聞かず水島にのめり込んで行きます。やがて水島の態度が変わって来ます。そして十和子の脳裏に様々な過去の出来事が思い出されてきます。
ほぼ原作通りの展開です。現在と過去の描写の順番が多少異なってはいますが。陣治の最後のセリフなどは原作の通りでした。
原作の陣治はもっともっと気色悪い男でしたが、阿部サダヲ演じる陣治は気色悪さを出そうとしてはいますが、人のいいオッサンになってしまっているます。
以前の記事で小説を映画化するのは難しく、全く別物として捉えなければ映画の独自性というものが出て来ないというようなことを書いた気がしますが、あらためて推理小説やミステリーを映画化するのは難しいということを感じました。推理・ミステリーはストーリー性が最も重要な部分であり、そこが事前にわかってしまっていると、他に何を上乗せするかということになってしまいます。そこが純文学等を映画化した文芸作品とは違う難しさがあるのではないでしょうか。
文芸作品ですと、その小説の捉え方は、脚本家なり監督なりの感じ方で小説とは全く違うものが出来上がるということはよくあることで、それが映画の良さでもあり、楽しさでもあります。もっともそんなことを映画に求めている人がどれだけいるかという事なのでしょうが。これは私の個人的な映画の鑑賞方法なのでご勘弁願います。
この監督の作品『凶悪』は原作がノンフィクションでしたが、こちらは原作も読みましたが原作とはまた違う映画独特の面白さがありました。これは元がノンフィクションという、ドキュメンタリー風でありながらもドラマ性を持った娯楽映画としての魅力も十分に見せてくれた結果でしょう。リリー・フランキーとピエール瀧が良かったです。
沼田まほかるの作品は、この他にも『ユリゴコロ』が映画化されています。これも原作は面白いです。
やはり、推理・ミステリーは小説か映画かどちらかにしようと思います。
ちなみに『殺人鬼フジコの衝撃』の映画は観ていません。
それでは今日はこの辺で。