Flying Skynyrdのブログ

映画や音楽、本についての雑文

小説『新月譚』を読む

久しぶりの読書記事です。貫井徳郎新月譚』です。

この作家の作品はもう何冊になったでしょう。結構な数を読みました。忘れないうちに書いておきます。

新月譚 (文春文庫)

新月譚 (文春文庫)

 

 

ザックリとしたあらすじです。

絶筆した売れっ子女流作家、咲良怜花にもう一度筆をとらせようと若い編集者が彼女を訪ねます。編集者は高校生の頃からの大の咲良怜花ファンでした。

咲良怜花は女は勿論、男までもが嫉妬する、超が付くほどの美人でスタイルも抜群。若くして文芸雑誌の新人賞を受賞。しかし、その小説の内容は平凡でした。ところが3作目から全く作風が変わったのでした。それからは数々の文学賞を総なめにし、超人気作家に上り詰めました。そして突然の絶筆。編集者は作風の変化と絶筆した理由を知りたくて尋ねるのでした。すると彼女はある理由から、思いがけなく自分の半生を語りだすのでした。

 

咲良怜花、本名は後藤和子。外見に自信が持てず、性格も暗く人前に出るのが苦痛な、コンプレックスの塊のような女性でした。短大を卒業して名の知れた企業に就職しますが、人間関係に嫌気がさしすぐに退社。新たに就職活動をします。今度は人間関係に煩わされない小さな会社を選び面接に向かいました。その会社の社長が直接面接し、思いがけず気に入られ即採用となりました。

そして一回り年の違うこの社長・木ノ内徹と想像もしなかった恋愛関係に落ちることによって和子の人生は思わね方向に向かうことになるのです。

 

木ノ内は次々と女をつくるなど不誠実極まりないのですが、それ以上にやさしいのです。和子の長所を褒めちぎります。そして和子の能力を認めてくれるのたった一人の男でした。これから30年近く付き合いは続くのです。次々と女を作っては別れますが、和子とだけは別れようとしません。この間、木ノ内は2度結婚します。一人目は和子の高校時代の親友でした。木ノ内との関係を相談をするうちに親友が木ノ内に興味を持ち近寄り横取りしたのです。そして子供が出来たと結婚してしまいます。木ノ内は謝りますが、さすがにこれには耐えきれず会社も辞め木ノ内とも別れました。

 

すべての不幸の原因はこの顔だ、と整形手術を受ける決心をし、見違えるほどの美貌を手にいれました。しかし世間の目は冷たいものでした。あまりの美しさに敵意を持った目で見られるようになりました。恋人と親友を失い孤独になった和子は本を読むことが唯一の趣味だったことから、自分にも出来そうだと思える小説を書き始めます。そして思わぬ新人賞を受賞します。木ノ内が連絡してきました。べた褒めしてくれました。付き合いが再開します。整形後は名前も変え過去は一切封印します。ペンネームをつけてくれたのも木ノ内でした。過去を知っているのは木ノ内だけです。

 

木ノ内との関係を知った親友が和子を激しくなじり、付きまとうようになりました。親友は流産していたのです。止む無く木ノ内に相談すると、この結婚は失敗だったと認め、親友とはさっさと離婚しました。再び恋人同士に戻りました。しかし、再び木ノ内は結婚しました。今度は事業資金確保のための政略結婚でした。そしてやがて子供が出来ます。

 

それでも和子は木ノ内を繋ぎ止めるために小説を書き続けました。ただただ褒めてもらいたいために。そして常識に嵌まった作風に限界を感じ、自分の醜い心の部分、人間の負の部分に焦点を当てた小説を書き始めました。世間の評価など気にせずに書いてみようと。ところがこれが受けたのです。そして押しも押されね大作家に登り詰めました。有り余る金も手にはいりました。二人の不倫は続きました。

 

しかし、ある出来事により木ノ内が吐いた言葉によって28年間続いた二人の関係もあっけなく終わりがきました。和子はすべてを失い、そして筆を絶ちました。もう和子には小説を書く理由がなくなったのです。

 

最後のエピローグで咲良怜花がこの若い編集者に自分の半生を語った理由が判明します。意外なことでした。

 

木ノ内は「ひとたらし」、和子は「都合のいい女」と一見思われますが、実際はそんな生易しい関係ではありません。お互いが生きていくために必要な存在だったのです。和子は過去の人間関係を一切絶ち、ただ木ノ内との関係と小説を書くこと、咲良怜花にすがって生きています。一見弱そうでこんな強い人間はいないでしょう。そして、したたかに成長して行きます。

 

コンプレックスに苛まれた人間が、それを払拭する手段を見つけたときに、そこに注がれるエネルギーは、ある時は自分の想像を越えるものを造り出すのかもしれません。そしてそれを後押ししてくれる恋人がいたら・・・。

 

600ページ以上の小説でしたが一気読みでした。和子のけなげさと強さに切なくて悲しくて涙が溢れそうになりました。『新月』とは後藤和子自身のことです。存在が見えない我が身を例えたのでしょう。

 

読ませる作家です。この作家はサスペンス、ミステリーが多いのでこの小説もミステリーかと思って読み始めましたが意外でした。ただの恋愛小説とも違います。この前に読んだ『神のふたつの貌』はキリスト教の話でしたし、引き出しの多さに驚きます。

 

 

まったく支離滅裂な文章になってしまいました。これも興奮冷めやらねうちに書いた所以でしょう。凄い小説でした。

 

それでは今日はこの辺で。