今日のキネ旬シアターは『花咲くころ』でした。
主演:リカ・バブルアニ、マリアム・ボケリア
制作:2013年ジョージア(グルジア)、ドイツ、フランス 日本公開2018年
2015年からジョージアと表記するようになったかつてのグルジアの映画です。おそらく初めて観るグルジア映画です。グルジアは黒海とカスピ海に挟まれた、人口3700万人ほど、ワイン発祥の国です。まだまだ経済的には貧しい国です。
旧ソ連の構成国で、1991年ソ連解体と共に独立もしばらく旧ソ連勢力との内戦状態が続きます。その内戦が休戦状態にあった1992年の首都トビリシが舞台となっています。
ジョージアと言えば最近大相撲の栃ノ心が大関になって一躍有名になりました。私などはまだグルジアと言った方がピンときます。
この映画、とにかく不機嫌です。登場人物ほとんど全員が常に怒っています。主人公の二人の女生徒の家族、学校の教師、同級生、配給のパンに並ぶ行列の人々、みんな不機嫌で喧嘩ばかりしています。
二人の女生徒、エカとナティアは14歳、親友です。エカの父親は殺人の罪で刑務所に入っています。姉は悪友と遊んでばかり。母親は無関心。ナティアの父親は飲んだくれで、いつも母親と喧嘩。祖母は口うるさく怒ってばかり。弟とは常に喧嘩。要は国全体が未来を見等せずイライラしていたのでしょう。
この二人の救いはお互いの友情です。ある日、ナティアはボーイフレンドのラドから拳銃をもらいます。「お前が心配だから、これで自分を守れ」と言います。
ナティアはエカが不良のコプラにいじめられているのを知り、拳銃を渡します。これで脅かせというのです。エカは無視しているからいいと断りますが、無理やり押し付けられます。
ナティアはラドに好意を持っているのですが、コテというあまり質の良くない男に求婚されます。ナティアは笑って一蹴します。何故だと聞くコテにナティアは「バカだから」と応えます。
しかしある日パンの配給の行列にエカと並んでいるときに仲間と共に車でやってきたコテに拉致されてしまいます。そして強姦されます(想像です)。
場面は変わってナティアの結婚式です。驚きます。これは映画の中の少女たちの会話の中でも出て来ますが、この国のこの当時の女性は処女のまま結婚するのが一般的で、処女じゃなかったら離婚されるというのです。つまりナティアは止む無く結婚の道を選んだというわけです。大昔の日本のようです。それでもまだ14歳です。
エカはナティアの選択が不満です。トイレにナティアを呼び出し拳銃を返します。ナティアは自分は幸せになるからとエカに言います。エカは皆の前で民族舞踊のような踊りを披露します。この場面は圧巻です。
結婚後エカがナティアを訪ねます。ナティアは結婚生活や夫に対する有り余る不満をぶちまけます。エカは見かねて実家に帰って誕生会をやろうと連れ出します。祖母が料理を用意してくれました。グルジア特産のワインを飲みほっと解放されるナティアです。
するとアパートの下の広場から歌声が聞こえてきます。ラドです。ナティアとエカは駆け下りて傍にいきます。眼で挨拶するナティアとラド。そこにコテが帰って来いと迎えに来ます。ナティアは断ります。コテはラドを睨みつけます。ラドの隣で歌う男性の歌がいいんです。
翌日、コテと不良仲間たちはラドを襲い殺してしまいます。半狂乱になったナティアは拳銃を取りに自宅に向かいます。エカはそれを必死に止めます。コテの両親は訳が分からずナティアを詰ります。ナティアは「あんたの息子は人を殺した」と言います。驚く両親。銃を奪い取ろうとするナティア。絶対渡さないエカ。ナティアはとうとう諦めます。そしてエカは湖に銃を捨てます。そしてナティアに向かって「帰ろう」と言います。二人は揃って夜道を帰ります。
場面は変わって刑務所。エカはこれまで母親に誘われても来なかった父親が収監されている刑務所に一人で向かいました。
そして面会の寸前、突然映画は終わります。
このようなストーリーを書くのも憚られるような、ストーリーというストーリーはありません。あとは想像にお任せ、みたいな感じで場面はどんどん進みます。ストーリにはあまり重要性はないみたいですが飽きることはありません。ついつい飲み込まれてしまいます。
このグルジアという国の当時の有り様が、映画の中に描かれているような気がしてなりません。反ソ、反ロ感情が特に強かったグルジア。その国民の怒りの感情が映画のどこかしこに現れています。ソ連からの解放と同時に、これからどこへ向かうのかという未来に対する不安が14歳の少女たちの姿を通して描かれています。
学校の教室の場面でナティアがカバンを投げたところを女教師に見られ、教室を出るように言われます。納得がいかないナティアですが、女教師は譲りません。止む無く教室を出るナティア。するとエカも私も同罪だから教室を出ますと、女教師に言います。女教師はその必要は無いと言います。それでもエカは出ると言う。すると教室の生徒たちが次々に教室を出ると騒ぎだし授業をボイコットします。ある種独裁的な女教師に対する生徒たちの反発。これはソ連社会主義体制の終焉を物語っているのでしょう。
また映画の中で女性が洗面所に立てこもるシーンが多くあります。女性蔑視の時代だったのでしょう。逃げ場所はトイレ・洗面所。国の未来もそうですが、女性にとっての未来も不透明な時代だったのだと思います。監督が女性だということもあって、その辺のところが至る所に描かれていました。
エカ役のリカ・バブルアニとナティア役のマリアム・ボケリアは、ともに演技未経験だったが、本作でそろってサラエボ国際映画祭の主演女優賞を受賞したそうです。この二人、とても14歳とは思えない美しい女性たちでした。
驟雨の中を走る長いシーンなど、印象深いシーンが多くありました。秀作です。
それでは今日はこの辺で。