監督:ジョゼ・パジーリャ
製作:2018年 イギリス・アメリカ 2019年 日本公開
この映画は1976年にウガンダのエンテベ国際空港で起きたハイジャック事件での救出作戦、通称「サンダーボルト作戦」の模様を、事件発生から救出までの7日間について描いたものです。
このサンダーボルト作戦についてはこれまでにも何度か映画化されていますが、今回の映画は珍しく犯人側の心理描写なども描いた作品になっています。
1976年6月27日、ギリシャのアテネ国際空港を離陸したパリ行きのエールフランス139便は4名のテロリストにハイジャックされました。犯人は「パレスチナ解放人民戦線・外部司令部」(通称PFLP-EO、パレスチナ解放機構(PLO)傘下の組織)のメンバー2名と西ドイツのテログループ「革命細胞(RZ)」の2名でした。主役はこの二人です。
乗客・乗務員約240名は途中リビアで燃料を補給し、妊婦(実は嘘)を解放し、ウガンダのエンテベ空港に向かい強行着陸しました。ウガンダの大統領アミンは反イスラエルだったのです。アミンは犯人を歓迎します。
テロリストとの交渉はしない立場のイスラエル政府でしたが、ラビン首相はアミン大統領との交渉を始めました。乗客はイスラエル人とユダヤ人を残し解放されました。犯人側の要求は服役中のテロリストの釈放でした。その裏でイスラエル政府の救出作戦は着々と進めれていました。
そして遂に事件発生7日目、作戦が実行されました。イスラエルの特殊部隊がエンテベ空港へ出動しました。そして襲撃開始。犯人を全員射殺し、人質は全員解放されました。このニュースは全世界を駆け巡りました。
この事件を取り扱ったこれまでの映画のような派手な救出劇ではなく、あくまでも政治劇としてイスラエル政府とテロリストたちそれぞれの「正義とは何か」を問うた映画になっています。
これまでクローズアップされてきた「サンダーボルト作戦」についてはごく控えめに描き、ハイジャックに至った経緯を描いていましたが、中途半端感は拭えず、少し物足りなさを感じました。もう少し詳しく当時の状況を描いて欲しかったです。
映画では西ドイツの過激派メンバーがなぜテロに参加したかなども若干描かれていますが、動機が希薄な感じです。またドイツ人がユダヤ人を殺すことにホロコーストの再現ではないかと躊躇いを感じる場面もあります。
このパレスチナ解放人民戦線には元共産主義者同盟赤軍派の重信房子らが結成した日本赤軍も積極的に参加しました。1972年にはテレアビブ空港乱射事件(奥平剛士・安田安之死亡、岡本公三は逮捕)、1973年にはドバイ日航機ハイジャック事件、1974年にはハーグ事件、1975年にはクアラルンプール事件、1977年にはダッカ日航機ハイジャック事件などその他にも多くの事件でテロを起こしました。当初はPFLPの指導の下に関与していましたが、途中からは独自のテロを起こすようになりました。2001年には解散宣言を出しましたが、一部のメンバーは未だに活動を継続しており、捕らえられていません。岡本公三や「超法規的措置」で釈放された奥平純三、同じく元連合赤軍の坂東国男、東アジア反日武装戦線の佐々木則夫、大道寺あや子などは未だに国外逃亡中です。最高幹部の重信房子は服役中です。
ハイジャック事件と言うと日本では「よど号」ハイジャック事件が真っ先に思い出されます。この事件も政府側と犯人側、双方の立場に立ったドラマやノンフィクションが多く放映されたり出版されたりしました。その見方によって事件の様相も大きく変わる場合があります。この事件などはその典型かもしれません。現在も犯行グループの4人が北朝鮮に残っています。リーダーの田宮高麿は死亡したとされています。
連合赤軍による「あさま山荘事件」なども佐々 淳行原作の映画『突入せよ!あさま山荘』と若松孝二監督の『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』では、同じ事件を取り扱っても全く違う映画になっています。もちろん若松孝二監督の力作に軍配が上がるのは言うまでもありません。
話が逸れました。
このようにイスラエルとパレスチナの中東問題は第2次世界大戦後から今まで止むことなく続いています。英米の独断がこのような結果を招いたと言ってもいいでしょう。今では中東全土に広がり、収拾がつかない状態になっています。アメリカによる武力介入は何の成果も挙げられなかったことは明白です。現在のイランに対する敵視政策も功を奏するとは思えません。今後、いかなる政策で中東問題の鎮静化を図るのでしょうか。
映画のオープニングと途中に挿入されるダンス劇と意味不明なエンディングはいらなかったような気がします。
それでは今日はこの辺で。