Flying Skynyrdのブログ

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映画『三島由紀夫vs東大全共闘〜50年目の真実〜』を観る

昨日のキネ旬シアターは三島由紀夫vs東大全共闘〜50年目の真実〜』でした。

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監督:豊島圭介

主演:三島由紀夫、芥正彦、木村修、橋爪大三郎

製作:2020年 日本

 

1969年5月13日、東京大学駒場キャンパス900番教室で行われた三島由紀夫と東大全共闘全学共闘会議)の討論会のドキュメント映画です。この討論会の模様は当時書籍で出版されたと記憶しています。東大の参加者は1000人を数えました。三島由紀夫はたった一人で彼らに対峙しました。三島は余裕綽々で1000人を相手に、しかも楽しそうに討論会を終えるのでした。当時の全共闘の学生や盾の会のメンバーがインタビューで出演しています。

 

1969年はというと、高校生になったばかりの我々にも学生運動の波が押し寄せてきていました。その頃は高校生とはいえ、社会の変化に対しては敏感で、未成年ながら酒を飲みながら社会や映画芸術について徹夜で論じ合ったことなど度々でした。授業中はと言えば隣の生徒からマルクスの『共産党宣言』や毛沢東の『実践論・矛盾論』、レーニンの『国家と革命』などなど次々に回ってきたり、どこでもらってきたのか大学生のアジビラが回ってきたり、そしてなにかと言えば授業は度々討論会へと変わります。今思えば先生方もよく付き合ってくれたと思います。振り返れば高々16~7歳の子供が何をやっていたのだろうと可笑しくなります。

 

そんなころ、兄の本棚でこの映画の元になる本三島由紀夫vs東大全共闘を見つけて読んだ記憶があります。三島由紀夫にはこの頃、この他に『文化防衛論』などという政治に関する本もいろいろ書いていたと記憶しています。読むには読みましたが記憶にはほとんど残っていません。というか理解できていなかったのだと思います。三島由紀夫については小説よりもこの手の本を読んだのが先でした。そのためすっかり三島=右翼という図式が出来上がってしまいました。ただ、右翼も左翼も紙一重だということは朧気ながら理解できたような気がしました。当時の大学生はみんなこの手の本を読んでいたのでしょう。

 

三島由紀夫と言えば映画の『憂国』や『人斬り』を思い出します。テレビでの露出も高く、やれボディビルだ、剣道だ、空手だと肉体的ナルシストの一面も臆面もなく見せつけていました。また『盾の会』を創設して自衛隊への体験入隊も繰り返し、自他ともに認める天皇右翼でした。そのマスコミ人気も凄いものがありました。

 

1970年11月25日、三島由紀夫自衛隊の市谷駐屯地で割腹自殺をした日は今でもよく覚えています。確か午後の授業中にラジオを聴いていた誰かが大声で「三島が死んだぞ!」と叫びました。教室は大騒ぎ。さっそく討論会が始まりました。帰ってからも三島の話題で持ちきりでした。翌日は学校の授業でも三島由紀夫について、先生が率先して話をしていました。あの頃は先生方の中にも元気な人がいたんですね。私の観る映画がガラリと変わったのもこの頃でした。映画にも思想の風が吹いていました。映画=思想=政治という感覚でした。その流れに乗って夢中で映画を観た高校時代でした。

 

その流れは大学生活でも継続されました。連合赤軍事件のあと、もはや学生運動は下火になったと言われていましたが、実際はその後もまだまだ続いていました。我が大学もロックアウトの連続でまともな試験もありませんでした。東大闘争は過去になっていましたが、まだまだ政治の風は吹いていました。三島由紀夫の小説を読むのはなぜか大学生になってからでした。

社会人になってから、三島と一緒に割腹自殺した森田必勝の介錯をした人物の友人と知り合いになって当時のことをいろいろ聞いたことなどもありました。

 

この映画を観ていたら、討論の内容よりも当時の出来事や感情が走馬灯のように甦り、我が青春時代の1ページが鮮やかに思い出されました。この映画は私にとっては政治ドキュメントというよりはノスタルジックな映画となってしまいました。「実存」「事物」「解放区」「主体」「観念」「サルトル」などなど、これらの言葉は50年の歳月を一気に取り戻す懐かしい響きの連続でした。当時の学生と機動隊の衝突のフィルムも流れますが、まるで今の香港を見ているようです。世論もまだまだ学生の味方でした。

 

それにしても東大の学生も三島も熱かった。私などは全共闘世代からは遅れてきた世代ですが、『熱い時代』は経験しました。

あの『熱い時代』の日本はどこへ行ってしまったのか。 

今のこの時代に『天皇』や『革命』といった言葉がどんな意味を持つのかわかりませんが、社会・政治に対するあの熱気だけは失ってほしくありません。政治に対する『しらけ時代』などと言われて久しいですが、あの時代の熱気を取り戻して欲しいものです。今の政治の不条理さには声をあげなければならないと、老体にむち打ちながらも自分に言い聞かせる今日この頃です。

 

今日は全く映画の記事になっていませんでした。ただ、この討論の中で既に三島は翌年の自決を仄めかしていたことに驚きました。今生きていたら今の日本をどのように思うのでしょうか。

 

映画館は全共闘世代と思われるオジサンばかりでした。

 


【公式】『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』3.20(金)公開/本予告

 


三島由紀夫vs東大全共闘 自決1年前の“伝説の討論会”

 

それでは今日はこの辺で。