先日のキネ旬シアターは『ナチスに仕掛けたチェスゲーム』でした。
原作:シュテファン・ツヴァイク
監督:フィリップ・シュテルツェル
脚本:エルダル・グリゴリアン
出演:オリヴァー・マスッチ、アルブレヒト・シュッヘ、ビルギット・ミニヒマイアー
製作:2021年 ドイツ 2023年 日本公開
シュテファン・ツヴァイクの小説『チェスの話』を映画化したサスペンスです。
ヨーゼフ・バルトークはアメリカへ亡命するためにロッテルダム港に向かい、離れ離れになっていた妻のアンナと再会します。豪華客船に乗ったヨーゼフはアンナを抱きしめ、アンナは「大丈夫、すべて元通りになる」と言うのです。ヨーゼフには壮絶なる過去があったのです。
かつてウィーンで公証人をしていたヨーゼフは優雅な暮らしをしていましたが、ナチスドイツがオーストリアを併合すると事態は一変します。自宅に乗り込んできたナチスはヨーゼフを連行しホテルに監禁します。そしてゲシュタポのフランツがヨーゼフが管理する貴族の莫大な資産の預金番号を教えると迫るのです。
口を割らないヨーゼフに対しフランツは「特別処理」という拷問を命じます。それは家具以外何もない部屋に監禁するという精神的拷問でした。ヨーゼフは次第に肉体的にも精神的にも壊れ始めました。
そんな過去を持つヨーゼフの現在も船の中でも錯乱状態になります。一緒にいたはずのアンナの姿がありません。船員に聞いても初めから一人だったと言われます。動揺したヨーゼフは船内をうろつき、客にも話しかけますが相手にされません。そんな中船内ではチェスの大会が開かれていました。世界王者が乗客全員と闘っていました。そして最後の一人、船のオーナーとの勝負を見かけたヨーゼフは、ほぼ負けが確定していたオーナーにアドバイスをし、見事に引き分けに持ち込みました。
驚いたオーナーはヨーゼフに「大会で何度優勝したんだ?」と尋ねると、ヨーゼフは「大会に出たことはない。駒を触ったのも初めてだ」と答えました。ヨーゼフがチェスに強いのには哀しい過去があったのです・・・。
時間軸が飛び飛びで頭が混乱します。なにが事実でなにが妄想なのかも、一瞬わからなくなります。
「特別処理」という拷問方法。初めて見ましたが、肉体な的拷問にも劣らない、苛烈な拷問です。人間、一日中何もせず、誰とも話せず、何日も何日も耐えられるでしょうか?次第に精神に支障をきたすというのもわかります。そんな中で見つけたたった1冊の本。何の興味もなかったチェスの本。ヨーゼフはその本、そしてチェスにのめり込んだのです。実際の駒を握ったことも無ければ、大会に出たことなどあるはずが無かったのです。
原作者のシュテファン・ツヴァイクはオーストリア生まれのユダヤ人でヒトラー政権が誕生するとユダヤ人への圧力が強くなりイギリスへ亡命、その後アメリカ、ブラジルへと亡命しています。その間も反戦運動は続けていましたが、この小説を書き上げた後、絶望の末自殺したそうです。
ナチスドイツは日本と同様、残酷な国家でした。しかし、戦後の処理は残念ながら、全く違っていました。
それでは今日はこの辺で。