Flying Skynyrdのブログ

映画や音楽、本についての雑文

小説 『あの女』 を読む

『殺人鬼フジコの衝動』以降、すっかり真梨幸子のファンになり『弧虫症』『インタビュー・イン・セル:殺人鬼フジコの真実』『女ともだち』『深く、深く、砂に埋めて』『みんな邪魔』『クロク、ヌレ』『あの女』と読んできました。

もちろん他の作家も並行して読んでいますが、今のところ彼女の小説にも入り込んでいます。

今日はその中で『あの女』について書いてみようと思います。

女性作家が二人、それとその担当編集者の3人が中心に話が始まります。

所沢のタワーマンションに住む、売れっ子女性作家、三好珠美は次回のN賞を狙って、担当編集者の西岡健司の勧めに従い、所沢のかつての遊郭を取材し、それにまつわる小説を書こうと意気揚々としています。しかし、最近誰かにつけられているような感じがしてなりません。

一方、もう一人の女性作家、根岸桜子は高幡不動駅から歩いて15分以上もかかる、賃貸の安マンションに住む、売れない作家、本業はOLです。

二人はほぼ同時にデビューしましたが、その後は差がつくばかり。珠美は本来は映画監督志望で、たまたま書いた小説がヒット、その後はエッセイやテレビ出演などで人気を博します。言いたいことはズバズバ言う、その表裏が無いところが受けているようです。

桜子は純粋に作家志望ですが、何気に応募した作品がちょっとした評判を呼びましたがその後はさっぱり売れず、ほぼ忘れ去られた状態で、焦るばかりです。

桜子は珠美に対して激しい妬み、嫉妬を抱いています。彼女さえいなければ、自分があの立場になれたのにと、あいつなど死ねばいいとさえ思っています。

編集者の西岡は何故か所沢の歴史にこだわり、盛んに珠美に取材を強制します。所沢はかつて『野老澤』と書いて、軍の飛行場があり、戦後はアメリカ軍が駐留しており、兵隊を相手にした遊郭がたくさんあったそうです。航空発祥の地として知られ今では航空公園になっているようです。その遊郭にあの『阿部定』が名前を変えて住んでいるという伝説があるとのことで、それをモチーフにして小説を書かせ、N賞を取らせたがっているのです。

ある日、その珠美が自宅のタワーマンションの3階から転落し、植物人間になってしまいます。この事故が単なる事故なのか、殺意を持って行われたのか、あるいは自殺未遂なのかはわかりませんが、警察は事故として処理します。

西岡はこのテーマを桜子に書かせることにします。西岡と珠美は不倫関係にあったのですが、西岡はあっさりと桜子に乗り換えます。桜子はテーマをもらって、自分がN賞を取るんだと意気込みますが、どうしても所沢に興味が湧きません。西岡にしつこく取材を勧められ、渋々取材を続けるうちに徐々に引き込まれ、書き上げますが、西岡からはダメ出しが続きます。

そうこうしているうちに、珠美が死亡します。西岡と桜子は思いもよらぬ方法で、その著作を世に訴えます。珠美を殺したのは桜子だというのです。そしてそれを小説にして発表するという記者会見を開きます。真実に基づいた小説だというのです。そして桜子は警察に自首します。

しかし、西岡と桜子を知る関係者の中に、これは「フェイク」だと見抜く人物が現れます。事故の起きた時間に西岡、桜子と同席して打ち合わせた人物がいたのです。

そしてまた、別の人物も、この人物も小説家ですが、小説家のカンからこの小説は「フェイク」だと見抜きます。

しかし桜子は堂々と彼らに対し、反論を展開します。結局、裁判の結果、当時の薬の多用による精神状態の不安定さということから執行猶予3年で決定します。

果たして真犯人は誰か、ということになりますが、これ以上のネタバレは止めておきます。

この他の登場人物としては西岡の妻、娘、フェイクを見抜いた小説家・大崎の友人・川尻とその妻、出版社の女性などです。

それよりも、この小説で面白いのは、嫉妬、妬み、恨みのエネルギーの凄さです。真梨幸子自身も当然小説家ですから、作品が売れる、売れない、書評の良し悪しなど気になってしょうがないこともあるのでしょう。やってもいない殺人の犯罪を認めてでも世に出たい(もちろん計算済みでしょうが)、あいつの存在だけは許せない、こういった負の感情がその人間の生きるエネルギーになるという事なのでしょう。作家というのはそういうギリギリの中でバランスを取りながらやっていく商売なのでしょうか。

真犯人の件ですが、あっと驚く人物でした。なんかやられたという感じです。この犯人を予想した人はいるのでしょうか。私の読みが浅いのかな。

珠美は映画監督志望ということで、8ミリ映写機を常に携帯して取材していました。この8ミリ映写機が重大なヒントになっています。

この小説、最初に発売されたときは『四〇一二号室』というタイトルでした。文庫本発売時に改題されたようです。

イヤミスの女王らしく、うっ、となる表現も多く見受けられます。

真梨幸子の小説には西武池袋線東武東上線が良く登場します。 あの辺に土地勘があるのでしょうね。

 

それでは今日はこの辺で。