今日の「聴き比べ」は『北上夜曲』です。
私もまだ生まれていない頃の歌です。この歌を聴いた時には誰が歌っていたのかもわかりませんでした。ただ何とも言えない哀愁のあるメロディが耳に残りました。
調べてみるとこの曲が出来たのは昭和15~16年頃らしいです。作詞したのは岩手県江刺市の菊地規(のりみ)という人です。そして作曲は岩手県種市町の安藤睦夫という人でした。菊地は水沢農学校、安藤は旧制八戸中学の生徒でした。菊地は在学中から詩作をしており、知り合いになった安藤に自作の詩に曲を付けて欲しいと頼みました。安藤は苦労しながらも曲を作り上げ、出来上がったのがこの「北上夜曲」でした。
菊地は当時北上川の近くに住んでいたこともあり、その風景をモチーフに作詞したものと想像されます。
昭和15年というと戦争の真っ盛り。暗い時代だったのでしょう。それが歌詞とメロディに現れています。当初、歌詞の中の「僕は生きるぞ、生きるんだ」というフレーズがどういうことなのか理解できませんでしたが、戦争に行くということが前提だったのだということが分かりました。
この曲は戦後、岩手県や宮城県で自然発生的に歌われ始めたようです。その後高度成長と共に全国の歌声喫茶などで歌われるようになりました。これに目を付けたレコード会社が続々とレコード化しました。作者が戦前の10代の青年だとわかるとにわかに脚光を浴びました。歌ったのは和田弘とマヒナスターズ&多摩幸子、ダークダックス、菅原都々子などでした。なかでもマヒナスターズがヒットしたようです。
私が聴いたのは誰の歌だったのかわかりません。女性の声も入っていたようなので多摩幸子だったのかもしれません。
北上夜曲
作詞:菊地 規
作曲:安藤睦夫
匂い優しい白百合の
濡れているよなあの瞳
想い出すのは 想い出すのは
北上河原の月の夜
宵の灯点すころ
心ほのかな初恋を
想い出すのは 想い出すのは
北上河原のせせらぎよ
銀河の流れ仰ぎつつ
星を数えた君と僕
想い出すのは 想い出すのは
北上河原の星の夜
春のそよ風吹く頃に
楽しい夜の接吻を
想い出すのは 想い出すのは
北上河原の愛の歌
雪のチラチラ降る宵に
君は楽しい天国へ
想い出すのは 想い出すのは
北上河原の雪の夜
僕は生きるぞ生きるんだ
君の面影胸に秘め
想い出すのは 想い出すのは
北上河原の初恋よ
オリジナル音源はありませんでした。
そして私の好きな倍賞千恵子さんがアルバム『まるで映画のひとこまのように・・・ 』のなかでカバーしています。出だしはおとなしく、次第に盛り上がっていく流れが何とも言えません。彼女はこのような抒情歌を歌わせたら抜群です。オペラ歌手のようです。残念なのは歌詞全部を歌っていないことです。4,5番が抜けています。
全曲歌っている人がいました。水森かおりさんです。
便利な時代になりました。こうして聴きたい曲がすぐ見つかるのですから。二昔前だったら考えられませんでした。ただ有難みは減りましたが。
懐かしすぎる1曲でした。
それでは今日はこの辺で。