監督:ヴィム・ヴェンダース
主演:ブルーノ・ガンツ、ソルヴェーグ・ドマルタン、ピーター・フォーク
制作:西ドイツ・フランス 1987年公開(日本公開1988年)白黒・パートカラー
実はこの映画、DVDに録ってあり、既に観ていたのですが、もう随分昔の話で内容も忘れてしまっていたし、やはり劇場で観たいということもあり出かけて行きました。
カンヌ映画祭の監督賞受賞作品でヴェンダース監督の代表作の一つでもあり名作ですが、今頃劇場公開とは面白いなと思って、キネ旬シアターの今後の予定表などを見ていたら、次は『パリ、テキサス』そして『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』とヴェンダース作品が続きます。当館支配人の好みなのかな、などと勘繰ったりしています。
昨年からキネマ旬報シアターも何となく上映作品の傾向が変わってきたように感じるのは私だけでしょうか。
ということでこの映画のあらすじは既に有名でしょうからサラっと書きます。
ドイツ統合前のベルリンの街の塔から下を見下ろし、人間たちを見守る天使のダミエルがいます。もちろん人間からは見えませんが、幼児には見えるようです。
友人のカシエルとその日に見た街の様子や人の様子などを報告し合うのが日課となっています。ダミエルは人間世界を見るだけでは物足りなく感じてきています。
そんな時、サーカス小屋で美しいブランコ乗りの女性マリオンを見かけます。ダミエルはマリオンに恋をしてしまいます。そしてどうしても彼女と話をしたくてたまらなくなります。天使は人間と触れ合うことは出来ません。彼女と接触するためには人間になるしかありません。しかし、天使が人間になるということは、永遠の生命を放棄することになります。つまり死ぬことです。
ある時、ベルリンにロケに来ていた俳優、刑事コロンボのピーター・フォークに出会います。彼は姿は見えないが気配を感じると言います。そしてこちらの世界に来たらいいよと勧めます。自分もそうだったというのです。
ダミエルは友人のカシエルに人間になりたいと打ち明けます。カシエルは人間になるということは死ぬことだと反対しますが、ダミエルの決心は固く、遂にダミエルは天使としては死んでしまいます。
そして気が付いた時には、それまでモノクロだった世界がカラーに変わりました。見るものに色がついていることに感激したダミエルは意気揚々と街を歩き回り、早速マリオンに会いに行きますがサーカス小屋は撤去されていました。ダミエルは落胆します。しかし天使のカシエルがマリオンに引き合わせてくれるのです。そして二人は結ばれ、ダミエルは人間社会で生きていくことになりました。
このようにあらすじだけ書くと、何かファンタジックな映画のように感じられるかもしれませんが、実はそうでもなく、人間の内面の業(天使には人間の心の声が聞こえます)や戦争中のベルリンの光景や戦争による爪痕などが映し出され、人間社会の醜さも描いています。
ストーリーはさておき、なんといってもこの映画の注目は映像でしょう。映画の前半は白黒です。この白黒映像が見事です。ヴェンダース監督が既にリタイヤしていた映像の巨匠アンリ・アルカンを説得して復帰させたと言いますから、その映像美には相当拘ったのでしょう。ベルリンの街の風景が白黒映像で鮮やかに映し出されます。そしてダミエルが人間になってからのカラー映像も鮮やかです。ベルリンの街の壁に書いてある落書きが色鮮やかで、ダミエルも感動しているように、それまでの白黒映像との落差が素晴らしいのです。昔のピンク映画のパートカラーもよかったですが、それとはまた違ったパートカラーです。
カット割りや連続する詩的な台詞回しはヌーヴェルヴァーグ映画を観ているようでした。
また、ニック・ケイヴが自身のバンド、バッド・シーズを率いてのライブも挿入されています。
映画の最後に「全てのかつての天使、特に安二郎、フランソワ、アンドレイに捧ぐ」と字幕で流れます。これは小津安二郎、フランソワ・トリフォー、アンドレイ・タルコフスキーのことでヴェンダースが小津安二郎のファンであることは有名です。
このあともヴェンダース映画にしばし浸るとしますか。
それでは今日はこの辺で。