Flying Skynyrdのブログ

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映画『その手に触れるまで』を観る

昨日のキネ旬シアターは『その手に触れるまで』でした。

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監督:ジャン=ピエール・ダルデンヌリュック・ダルデンヌ

主演:イディル・ベン・アディ、オリヴィエ・ボノー、ミリエム・アケディウ

製作:2019年 ベルギー・フランス 2020年日本公開

 

ベルギーに住む13歳の少年が過激なイスラム思想に目覚め、ジハード(聖戦)を目指す姿を描いた作品です。監督のダルデンヌ兄弟は第72回カンヌ国際映画祭の監督賞を受賞しました。

 

つい1か月ほど前まではゲームに夢中なごく普通の少年だったアメッドは今ではジハードで命を失った従兄の影響もありイスラム教の聖典コーランに夢中です。小さな食品店の2階にあるモスクに兄と共に熱心に通っています。

学校帰りに先生のイネスがさよならの握手を求めますが、「大人のムスリムは女性の肌に触れない」とそれを拒否する始末です。そのことを母親に咎められますが、父親が家を出て以来毎日酒を飲んだくれている母親を軽蔑しており「飲んだくれ!」と罵り、露出の多い服を着ている姉をも娼婦呼ばわりします。

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ある日、イネス先生がアラビア語を学ぶために歌で覚えようと提案します。しかし、保護者の間でも賛否両論でした。そのことをアメッドがモスクの導師に話すと、導師は「聖なる言葉を歌で学ぶなど冒涜だ。先生は背教者だ。」と一喝し、アメッドに「背教者はジハードの対象だ、どうする?」と問います。アメッドは決心します。

 

靴下の中にナイフを忍ばせイネス先生のアパートを訪れます。出てきた先生に襲い掛かりますが、先生はドアの中に逃げ込み難を逃れます。ジハードは失敗です。アメッドは導師の元に逃げ込みますが、導師は「私は指示はしていない、モスクのためにすぐに自主しろ」と諭します。アメッドは自首し、少年院に送られます。

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アメッドは少年院で更生プログラムの中の農場作業に従事します。しかしこれも1回で辞めてしまいます。心配した母親が面会に来て、「昔のお前に戻っておくれ」と泣き崩れます。そしてイネス先生が会いたがっていると伝えます。すると、後日アメッドは母親に電話でイネス先生に会いたいと伝えます。そして農場作業も再開します。教官にも心理士にも改心したことを訴えるのでした。農場主の娘ルイーズも親切にしてくれます。アメッドは礼拝所の洗面所で歯ブラシを盗みそれを削って尖らせるのでした。

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イネス先生と面会の日、アメッドは尖った歯ブラシを靴下に隠し面会に向かいました。アメッドを見た瞬間、イネス先生は泣き出し部屋を出てしまいます。面会は中止になりました。またしてもジハードは失敗に終わりました。

 

アメッドは再び農場に戻ります。娘のルイーズはアメッドに気があるようです。そしてとうとう畑の中でルイーズはアメッドにキスをします。アメッドは口をゆすいで礼拝しますが女性の肌に触れてしまったという罪の意識が消えません。ルイーズの部屋を訪ね、イスラム教に改宗する気はないかと尋ねます。イスラム教同志なら罪の意識が弱まるからです。しかし、ルイーズは拒否します。アメッドは自分を好きなら何故改宗しないのかと迫ります。強制されるのは嫌だというルイーズを突き飛ばしてしまいます。

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農場からの帰り、アメッドは少年院の車から飛び降ります。そしてバスで自分の街に戻り、学校に忍び込もうとします。凶器になる釘をみつけ、塀を昇って2階に入ろうとしますが屋根から落ちてしまいます。またしても失敗です。動けなくなったアメッドはやっとの思いで凶器の釘を壁に撃ち付けながら助けを呼びます。するとイネス先生が出てきて、驚き、「アメッド、大丈夫?」と呼びかけます。アメッドは先生の手を握り「許して!」と訴えます。先生は頷き、救急車を呼びに行きます。その瞬間画面が消え、映画は終わります。

 

あまりにも唐突な終わり方でした。アメッドの「許して!」の意味は何だったのでしょう。殺そうとしたことに対する謝罪なのか、殺せなかったことに対する謝罪なのか。あれほどジハードに凝り固まった心がそんなに簡単に改心するとも思えないのですが、読みすぎでしょうか。観る人によって意見が分かれそうです。ただ、自ら女性の手に触れにいったということは改心したと素直に見るべきなのでしょう。

 

アメッドは思春期です。ジハードで死んだ従兄を英雄崇拝の対象としてみており、イスラム教のコーランを絶対視しています。思春期の一時の心の迷いなのか、それともいやいやこれがイスラムの過激な思想に発展しISなどの過激派の温床となるのでしょうか。イスラム過激派は多分にこのような少年を勧誘しているのでしょう。

 

ベルギーのブリュッセルでは近年テロ事件が続出しています。パリのテロ事件にもベルギー在住のイスラム過激派が関与していました。ダルデンヌ監督はそれらに対する警告の意味でこの映画を製作したとも考えられますが、最後は観る人の想像にお任せします、って感じでしょうか。  


ドキュメンタリー・タッチのカメラワークは少年を追い続けます。少年の表情はいつでも無表情です。思春期の少年の一途さがカメラワークによって強調され胸に迫ります。

 

予告編を観た時にはこの少女によって少年が改心する話かな、なんて想像していましたが、まったく見当はずれでした。

 


映画『その手に触れるまで』予告編

 

 それでは今日はこの辺で。