昨日のキネ旬シアターは『はりぼて』でした。
監督:五百旗頭幸男、 砂沢智史
ナレーション:山根基世
声の出演:佐久田脩
製作:2020年 日本
富山県の小さなテレビ局、チューリップ・テレビが地方政治の不正に立ち向かった政治ドキュメンタリーです。
2016年、富山県の自民党会派の富山市議が政務活動費を事実と異なる報告をしていることを、チューリップテレビがスクープ。その市議とは富山市議会のドンと呼ばれた男で、このスクープを認め辞職します。これをきっかけに、カラ出張や架空請求、領収書偽造など議員たちの不正や役所と議会会派の情報漏洩が次々に明らかになり、その後、続々と議員辞職が相次ぎ、14人の市議が辞職しました。この事件の後、日本一厳しい条例を制定したにも関わらず、議員たちは不正が発覚しても、返金しては居座るようになってしまいました。
この事件は当時全国紙やテレビでも報道されたので憶えていました。
事の発端は市民の反対にもかかわらず、自民党会派のドン中川議員による議員報酬アップ議案の提出に始まります。チューリップ・テレビの記者がその意図をインタビューするも、「議員は年金もないから辞めたら暮らしていけない」など、うまい具合に言いくるめられました。
そこで今度は議員報酬の中の政務活動費の実態を情報開示請求により調査し始めました。すると中川議員の架空発注の領収書が見つかりました。
これを当人に問いただすと、当初はしらばくれていましたが、証拠を突き付けられると観念して、泣きながら議員辞職の会見をしました。その理由が凄いです。「酒が好きなもんで誘われると断れない」。思わず笑ってしまいました。
するとその後も続々と不正な政務活動費の報告書が見つかり、次々に議員が辞職することになりました。これは自民党会派だけではなく、他の会派も行っていました。結局2014年8月に始まって半年余りで14人が議員辞職しました。中には議会議長も含まれていました。その後選任された議長も次々に不正が発覚し、交代させられました。
こうして補欠選挙も行われ全員新人が当選しました。議員報酬増額の法案も撤回され、政務活動費の運用ルールも厳しく制定されました。これで富山市議会は生まれ変わるはずでした。
新しく自民党会派の会長になった長老の五本議員。任期満了に伴う2017年の市議会選挙前には議会を立て直すと、集まった支持者に土下座をして選挙臨みました。
すると、新たに会長になった五本議員にも政務活動費不正支出の疑惑が持ち上がりました。取材に対し、本人は白を切ります。しかし外堀が埋まってくると、今度は一転謝罪。しかし、議員はやめません。その後も他議員に不正疑惑が見つかっても辞める議員はいなくなりました。とにかく謝罪して、時間が経ってほとぼりが冷めるのを待つ、という姿勢に変わったのです。
取材の過程で、役所へのヒヤリングをした内容が議員側へ筒抜け状態。秘密保持義務など無いも同然。公務員は先生への配慮を忘れません。
この間、富山市の市長はインタビューに対し「制度上から、答える立場にありません」の一点張りです。どこかで誰かが言っていた言葉が、ここでも繰り返されます。
映画の終盤、この映画の監督の一人、砂沢智史は人事異動で取材から外されます。そしてもう一人の五百旗頭幸男は会社を退職します。退職にあたって、みんなの前で涙ながらに「もう一度、チューリップ・テレビがきちんとした報道ができることを願います」とあいさつします。映画では何も語られませんが、想像するに会社に対する圧力もあったのでしょう。そしてスタッフたちへの命令。取材スタッフたちの無力感は相当のものだったと思います。勿論それは圧力に屈するという無力感。さらにはいくら訴えても結局は何も変わらない、という無力感も。そして自らは罪人を裁けない、という無力感も
これは富山市でおきた出来事ですが、いわばこれは日本の縮図です。今の国政も都合の悪いことは答えず、隠す、はぐらかす。不正がバレても議員辞職はせず、居直り。党を離れればそれで党に責任は無し。「任命責任は私にあります。真摯に受け止めます。」のきまり文句。この言葉はイコール「責任は取りません」ということ。そして野党も週刊誌頼りの追求。メディアの追求も中途半端。結局、時間と共にうやむやになって、誰かさんと誰かさんはほくそ笑んでいる、これが実態です。国民は優しいのです。
この国が見事な「はりぼて」なのかもしれません。
この映画、内容は深刻な問題を扱っていますが、その表現はときにコミカルで、スピーディーでまったく時間を忘れます。
怒りがこみ上げると同時に思わず笑ってしまったり、あきれ果てたり、の2時間でした。
それでは今日はこの辺で。