先日のキネ旬シアターは『ミセス・ノイズィ』でした。
監督・脚本:天野千尋
出演:篠原ゆき子、大高洋子、新津ちせ
製作:2020年 日本公開
この映画は何年か前に騒がれた「騒音おばさん」事件をモチーフにして作られたそうです。私もこの「おばさん「」はよく憶えています。
あらすじ・ネタバレ
主人公の吉岡真紀はデビュー作で文学賞の新人賞を獲るなどの有望な小説家で、子供も生まれ夫との3人暮らしで、幸せの絶頂期でした。しかし夫は家事・育児をまったく手伝ってくれず、真紀は小説が書けずスランプに陥っていました。
6年後、娘の菜子も幼稚園生になり、心機一転と新たに郊外の集合住宅に引っ越してきたのですが、真紀のスランプは相変わらずの状態です。
そんな時、新たな問題が沸き起こります。早朝から隣のベランダで布団を叩く音が聞こえてきました。隣人の中年女性、若田美和子です。なにやらぶつぶつ言いながら夢中で布団を叩いています。締め切りが迫っている真紀にとってはこの騒音はたまったものではありません。
一方、母親がかまってくれない菜子は、退屈を持て余し、ボールをもってこっそりと遊びに行ってしまいます。菜子がいないことに気がついた真紀は慌てて外に出ますが、そこに菜子が隣人の美和子と一緒に帰ってきます。公園で美和子と遊んでいたというのです。さらに美和子から嫌みをいわれイライラはつのります。
真紀は夫に相談しますが、宥められるだけです。出来上がった原稿をもって出版社に行っても、書き直しを指摘されるだけです。そして騒音は日に日にひどくなり、注意しても全く効き目がありません。
そして別の日、再び菜子がいなくなりました。美和子の家のチャイムを押しますが返答がありません。夕方になっても帰ってきません。慌てた真紀は警察に連絡するなど大騒ぎになります。夜になって美和子が菜子を連れて帰ってきました。美和子の家にいたのです。真紀は怒りますが、逆に娘をほったらかしにする親が悪いと言われてしまいます。おまけに菜子は美和子の夫と風呂に入ったなどと楽しそうに話すのでした。
どうにもたまらなくなった真紀は従兄弟の入れ知恵でこの現実を小説にしたのです。タイトルは「ミセス・ノイズィ」。この連載が大評判になるのです。そしてこの従兄弟は二人のいさかいの様子をネットで公開してしまうのです。これがまた評判になり、小説はますます売れます。ネット上では大炎上です。
しかし、美和子が布団を叩くのには理由があったのです。美和子の夫は一人息子を事故で亡くしてから精神を病み、布団の中に虫がたくさんいるという幻想におびえていました。美和子は夫の不安を取り除くために布団を叩いてあげていたのです。菜子をかわいがるのも亡くした息子の代わりのつもりだったのです。
そんな夫の姿が変態男としてネットで拡散すると、夫はショックでベランダから飛び降り自殺をしてしまいます。幸いなことに一命をとりとめますが、今度は隣人を自殺に追い込んだとして、逆に真紀がマスコミから攻撃を受けることになってしまいました。当然連載は中止、家の前にはマスコミが押し寄せ、質問攻めに遭い、家に入ることもできません。
それを救ったのは美和子でした。美和子はマスコミを怒鳴りつけ、菜子を抱き上げ逃げました。真紀は後を追います。美和子から夫や息子のことを聞かされ、真紀は大声で謝ります。そして二人で泣いて和解することが出来ました。
騒ぎが大きくなったことで真紀一家は引っ越すことになりました。そして連載中だった小説を書き直し出版しました。それは高い評価を得るのでした。そして、それを美和子に送りました。タイトルは「ミセス・ノイズィ」です。美和子はそれを読み、大笑いし、そして泣くのでした。
この映画は途中で1カ月前に遡り、若田家の事情と美和子から見た、子供を放ったらかしにする真紀の変人ぶりが語られます。ここで観ている方は、これまで美和子が一方的に悪人だと思い込んでいたことが覆されます。同じシーンが何度か登場しますが、真紀には美和子が謝っていた言葉などが耳に入っていなかったのです。美和子もしかり。真紀の事情など、まったく分かっていません。
真紀の夫は真紀のイライラぶりに嫌気がさし、「もう無理かもしれない」と家を出てしまいます(最後は仲直りしますが)。その時、夫の言った言葉、「君は自分の都合でしか物事を見ない」が、この映画のすべてを表しているようです。人は自分の都合の良いように物事を判断します。そして諍いが起こります。真紀の夫のようにはなかなか達観できません。
「騒音おばさん」がいい人になってしまったのはちょっと残念。
主人公を演じる篠原ゆき子はテレビドラマ『相棒』に今シリーズから出演中です。菜子を演じた新津ちせは「Foorin」のメンバーです。これがかわいい。おばさん役の大高洋子はドンピシャリでした。
涙腺が弱くて困ります。
それでは今日はこの辺で。