先日のキネ旬シアターは『妖怪の孫』でした。
原案:河村光庸
監督:内山雄人
プロデュース:古賀茂明
ナレーション:古舘寛治
アニメ:へんぴねこ
製作:2023年 日本
監督の内山雄人は前作『パンケーキを毒見する』で菅前総理のドキュメンタリーを撮りましたが、今回は本丸・安倍晋三をテーマにしたドキュメンタリーです。
原案は日本アカデミー賞を総なめにした『新聞記者』などのプロデューサーで知られる昨年亡くなった川村光庸です。内山監督は川村から「次はちゃんと本丸を描くべきじゃないか」と言われて、このドキュメンタリー映画の制作に取り掛かったそうです。途中で安倍晋三が暗殺されるという事件が発生し、多くのことが謎に包まれてしまい、監督も映画を撮り続けるべきか悩んだそうですが、明らかになった事実だけを並べようと決め、映画を完成させました。
「妖怪」とはもちろん岸信介です。岸信介は安倍晋三の母方の祖父。父親は安倍晋太郎。大叔父に佐藤栄作。父方の祖父は衆議院議員の安倍寛。弟は岸信夫。安倍晋三はまさに政治家一家に生まれました。憲政史上最長期間、権力の座に就いた安倍晋三並びに安倍政権がもたらした功罪を検証します。
第二次安倍内閣が誕生しておよそ10年。良くも悪くも日本社会は大きく変わったような気がします。貧富の差の拡大、社会の分断化、憲法改正への世論の動き等々。これらはいずれも安倍政治による影響大です。これほど賛否の別れる政治家も珍しいでしょう。
アベノミクスの高所得者優遇措置。モリ・カケ・サクラ。「こんな人らに負けるわけにはいかない」演説。特定秘密保護法、安保法案の強行採決等々。
安倍政権はメディアをうまく利用し、社会の分断化に成功しました。マスコミは恐れをなして尻込みし、真実の報道は避けるようになりました。「報道の自由化」ランキングは下落の一途です。「モリ・カケ・サクラ」も何のその。平気でうそを重ね、ひたすら思いどうりに突っ走りました。しかし、結果は。国民一人当たりGDPはもはや後進国並み。社会は分断、政治の話はタブー。一昔前、二昔前までは検察も官僚もマスコミももう少し独立性を保っていたのではないでしょうか。今じゃみんな忖度一辺倒です。これで世の中は良くなったと言えるのか?
映画はこれらのことを検証していきます。アベノミクスに対する本人の談話で「アベノミクスは成果などどうでもいいんです。やってる感が大切なんだ。」と。「これは民主党から学んだ。彼らは何もやらなかった」。なるほど、マスコミ・人心操作は抜群です。
私など知らなかったのですが、山口県の安倍事務所は地元の暴力団との付き合いもあったようです。暴力団を利用しての選挙妨害事件。中央のマスコミは一切報道していません。アメリカのジャーナリストも日本のマスコミの独立性の希薄さを嘆いています。安倍は「日本外国特派員協会」の記者会見には一度も登場していないそうです。外国人記者は日本と違って質問が厳しいからだそうで、現に田中角栄の失脚の糸口になったぐらいですから。そこで会見を行わないというのはなるほど賢明です。
などなど、世間に知られていない事実がいろいろと飛び出してきて、改めて安倍政治の暗黒部分が明確になりました。安倍がなにより望んだのが「憲法改正」です。何故か?それは「昭和の妖怪・岸信介」がやり遂げられなかったことだからです。A級戦犯ながら生き延び、総理大臣まで登り詰め、その後も黒い疑惑に包まれながらも政財界に君臨した妖怪です。安倍はその妖怪・岸信介を超えることを人生の目標にしていたというのです。その前に凶弾に倒れてしまいましたが、その流れは「憲法改悪」というかたちで実現しそうです。著名な憲法学者も安倍の学友の評論家も憲法改正を論じるには安倍の学業のレベルは低すぎると嘆いていました。
統一教会とのお付き合いも岸信介の流れです。反日教団と保守政党の結びつきって明らかな矛盾ですが、選挙に勝てばなんでもいいという国会・地方議員の方々の考えなんだと右翼の「一水会」の幹部が話していました。右翼と統一教会は「反共」でタッグを組んだが今では関係ないとのこと。あれほどマスコミをにぎわした「統一教会」問題も今はどこ吹く風。先の統一地方選挙でも関係のあった議員のほとんどが再選しています。喉元過ぎれば熱さを忘れる、日本人の特性が現れています。
ちなみにこの映画、山口県でもようやく上映されたみたいですね。安倍政治の功罪と言いますが、残念ながら私には「罪」しか思い浮かびませんでした。その後の菅、岸田内閣もしかり。これらを招いたのはマスコミと野党でしょう。早くまともな社会が来ることを望みます。山上氏の行動を無にしないためにも。
この映画を観ての感想は人それぞれ、賛否両論でしょう。もっとも安倍晋三礼賛派はこのような映画は観ないかな?
次回は是非、岸田文雄を取り上げてもらいたいものです。彼を見ていると安倍晋三がかわいらしく見えてきます。
それでは今日はこの辺で。