先日のキネ旬シアターは『いもうとの時間』でした。
監督:鎌田麗香
出演:ナレーション・仲代達矢
製作:2024年 日本 2025年公開
この映画は1961年、三重県名張市葛尾で起きた凄惨な事件、いわゆる『名張毒ぶどう酒事件』の犯人・奥西勝の冤罪を訴える妹の岡美代子に関するドキュメンタリーです。
事件の概要
1961年3月28日夜、三重県名張市葛尾地区の公民館で起きました。その日、公民館では集落の懇親会ががあり、その場でワイン(ぶどう酒)が振舞われ、そのワインに毒物が混入されていたのです。毒物は農薬のニッカリンTで、このワインを飲んで女性17人が中毒を起こし、5人が亡くなりました。
犯人として浮かび上がったのが奥西勝でした。当時35歳。三角関係のもつれが原因とされました。この時の懇親会には男性12人、女性20人が参加。男性には日本酒、女性にはワインが出され、中毒症状が起きたのは女性だけだったことからワインを検査したところ毒物が検出されました。
奥西は逮捕当時、容疑を否認しましたが、取り調べ中に犯行を認めました。その後、裁判では無罪を主張。第一審の判決は検察の死刑求刑に対し、無罪が言い渡されました。奥西は釈放され働き始めました。検察は当然控訴しました。控訴審では第一審の判決を覆し、死刑を言い渡しました。奥西はこれを不服として最高裁に上告しましたが、名古屋最高裁は上告を棄却し、死刑が確定しました。
これまでに10回にわたって再審請求を起こしましたが、いずれも棄却されました。その間、2015年10月4日、肺炎のため奥西勝は亡くなりました。89歳でした。
この事件を追ったドキュメンタリーを製作し続けた東海テレビの、これが4作目です。
私もかつてこの事件の書籍を読んだことがあります。その時の感想は、間違いなく冤罪事件だろう、ということだったと記憶しています。
狭山事件(再審請求中)や袴田事件、布川事件、徳島ラジオ商殺し事件など警察・検察の強引な取り調べによる冤罪事件は数多くあります。
検察は自身の名誉にかけて冤罪を認めようとしません。無理やり証拠をでっちあげ、あとから理屈をくっつけるやり方。最近の袴田事件にしてもその矛盾をようやく認めた形です。その50年以上の年月をどのように償うのか。まったくもって不条理極まりありません。
再審請求は親族しかできません。奥西勝の妹・岡美代子さんは94歳。もし美代子さんが亡くなったら、再審は永遠に行われず、真実は闇の中です。
この事件には物的・客観的証拠はありません。強要された自白だけです。検察はもう一度、自戒の念をもって最新の扉を開くべきでしょう。
仲代達矢のナレーションがおどろおどろしいです。
それでは今日はこの辺で。