Flying Skynyrdのブログ

映画や音楽、本についての雑文

映画『ファーザー』を観る ~ キネ旬シアター

先日のキネ旬シアターは『ファーザー』でした。

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原作・監督・脚本:フローリアン・ゼレール 『Le Père 父』

出演:アンソニー・ホプキンスオリヴィア・コールマン

製作:2021年 イギリス・フランス

 

この映画はアカデミー賞の6部門にノミネートされ、アンソニー・ホプキンスアカデミー賞主演男優賞を受賞、さらに脚色賞を受賞しました。 

 

ロンドンで一人暮らしをするアンソニーは80歳になって認知症の症状が出始めています。心配する娘のアンは離れて暮らしており、介護士を手配していますが、アンソニーはこれを嫌がり、追い出してしまいます。アンソニー認知症の自覚は無く、「誰の世話にもならない」と頑固な性格がアンを困らせます。

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アンソニーはアンから結婚してパリに行くので毎日は来れないと告げられます。戸惑うアンソニーですが、今度は見知らぬ男が家に居り、アンと自分はもう10年以上一緒に暮らしている。ここは自分の家だと告げるのです。男はアンの夫でポールだと名乗り、信用しないアンソニーに困り、電話でアンを呼びます。すると買い物から帰ってきたアンは全く別人でした。アンソニーは驚きますが、ポールという男のことを話すと、「前の夫とは5年前に離婚したじゃない」と言うのです。アンソニーはアンと男がこの家をのっとろうとしているのだと考えます。そして新しい介護士のローラにそのことを話し、介護士を困らせます。

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映画はこの後、アンソニーが体験する出来事を描いていきますが、あくまでもアンソニーが見た現実を描いているのです。そして、おそらくこれが現実かなという場面が時おり挿入されます。真実は途中まで見ている観客にはわかりません。

 

これは認知症になった人の頭の中を想像した映画です。認知症患者には現実がどのように見えているのか、どのように感じられているのか。時間軸もあいまいになって見ている方は何が真実なのかわからなくなります。

 

映画はミステリータッチで進んでいきます。時間も行ったり来たりします。そして、この家は誰の家なのか、部屋の模様も場面が変わるごとに微妙に変化します。娘のアンの顔も変わります。夫と名乗る人物の顔も変わります。認知症患者の頭の中はこんなふうになっているのかなと想像してしまいます。

 

認知症の父親を持ち、その世話をする娘の不安と悲しさと切なさ。そして自分が誰だかもわからなくなっていく父親の不安・恐怖と絶望感。これらが見ている側にひしひしと伝わってくる、ある意味すごく怖い映画でした。頑固だった父親が最後に子供のようになっていく姿に、何とも言えぬ不安感を共感させられました。もはや他人事ではありません。

 

最後まで施設には入れたくないと思っていた娘が、やむにやまれず施設に入れますが、その帰りに、これでよかったのだと自分に言い聞かせるような表情をする場面が印象的でした。

 

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 それでは今日はこの辺で。