先日のキネ旬シアターは『東京オリンピック2017 都営霞ヶ丘アパート』でした。
監督・撮影・編集:青山真也
出演:都営霞ヶ丘アパートの住民
製作:2020年 日本 2021年 公開
1964年の東京オリンピック開催に伴って国立競技場に隣接して建てられたアパート、都営霞ヶ丘アパート。当時はオリンピック開発の一環として建てられましたが、今度は2020年の東京オリンピック開催のために取り壊されることになりました。何とも皮肉な話です。
住民の平均年齢は65歳以上となり高齢化が進んでいます。彼らの元へ2012年に東京都から立ち退きの依頼が届きます。立ち退きを強いられた彼らの2014年から2017年までの姿を描いたドキュメンタリーです。
この映画は東京ドキュメンタリー映画祭2020 特別賞受賞作品です。
映画はアパートに住む高齢者たちの日常生活と、取り壊しに伴う引っ越しの準備の模様を定点カメラを駆使して追い続けます。
この中には2度のオリンピックでいずれも立ち退きを余儀なくされた人や、片腕が無い障害者、90歳になる老人など、いずれもこのアパートを終の棲家と考えてきた人たちばかりです。彼らは怒りと諦めの境地で引っ越しの準備を勧めます。
東京都は彼らに寄り添うことなく、一方的に立ち退きを迫ります。抗議の声も全く届きません。当時の石原知事は「あんな汚いアパートは取り壊す」といったそうです。行政の冷たさを痛感させられます。
1964年の東京オリンピックが象徴する当時の高度成長期を底辺で支えたのは、地方の出稼ぎ労働者たちでした。そして今度のオリンピックも華やかな舞台の影で犠牲になった多くの住民たちがいたのです。いつの時代も光と影が存在するのです。
住民の一人は公助が無さすぎると嘆いていました。彼らは自治会等の共助によって支え合ってきたのです。人々に冷たい政治はもうたくさんです。
この映画はドキュメンタリーですが解説のナレーションなどは一切ありません。BGMもほとんどありません。あるのは住民たちの肉声の会話だけです。それが一層現実の厳しさを表現しているようです。
2020年までに引っ越した住民のうち23人が亡くなったそうです。
それでは今日はこの辺で。