2月3日、歌手の梓みちよさんがこの世を旅立ちました。76歳でした。突然の訃報に驚きました。
梓みちよさんと言えば我々の世代ではすぐに『こんにちは赤ちゃん』が思い出されます。この曲は中村八大と永六輔のいわゆる「六・八コンビ」の作品です。坂本九ちゃんが歌った『上を向いて歩こう』とともに我ら小学生の愛唱歌にもなりました。それまでの歌謡曲とは一線を画したようなメロディーの斬新さが受けたのでしょう。
梓みちよさんはこの曲で昭和38年のレコド大賞にも輝きました。そして昭和天皇の前でこの曲を披露しました。日本初の出来事でした。
彼女は宝塚音楽学校を中退し歌手を志望して渡辺プロダクションに入りました。そしてこの曲に巡り合ったわけです。しかし、この後はなかなかヒット曲には恵まれませんでした。本人もこの歌を歌うことを長年封印しました。梓みちよ=『こんにちは赤ちゃん』のイメージが出来上がってしまい、世間もなかなか他の曲を受け入れられなかったのだと思います。
そんな中で私が彼女の歌で記憶に残っている曲があります。『リンデンバウムの歌』という曲です。いつ頃聴いた曲なのか記憶が定かではありませんが、小学生だったことは確かです。なぜこの曲が記憶に残っているのかも私自身よくわからないのですが、梓みちよさんというと『こんにちは赤ちゃん』よりこの曲が思い浮かぶのです。
今調べたところ、作曲は山本直純、作詞は岩谷時子という豪華な顔ぶれです。1964年の発表でした。音楽劇『若きハイデルベルヒ』の劇中歌だそうです。主演は北大路欣也で彼女はその恋人役で出演したようです。そんなことは何も知らず、テレビで彼女が歌う姿を観たのでしょう。その時の印象が今でも残っているのです。人間の記憶なんて不思議なものです。
リンデンバウムの歌
作詞:岩谷時子
作曲:山本直純
1 リンデンバウムの大きな幹に
愛の言葉を彫ってきた
リンデンバウムのみどりの木陰
勿忘草(わすれなぐさ)が咲いていた
牧笛(つのぶえ)がわたる夕べの空
ふたりの愛の星がのぼってくる
私の好きな 好きなひと
私の甘いくちづけ あなただけに
2 リンデンバウムの繁みのなかで
森の泉がわいていた
リンデンバウムに夜がくるとき
夜鶯(ナイチンゲール)がないていた
ともしびがゆれる水のほとり
たのしい恋の歌が聞こえてくる
私の好きな 好きなひと
私の甘いくちづけ あなただけに
3 リンデンバウムの月のあかりに
いつもあなたを待っていた
リンデンバウムは 私のほほに
つたう涙を知っていた
森かげに憩う旅人たち
なつかしい故里を夢みてる
私の好きな 好きなひと
私の甘いくちづけ あなただけに
その後、彼女は大変身を遂げます。『こんにちは赤ちゃん』のイメージを無理やり払拭するように悪女のごとく舞台に胡坐をかいて歌う『二人でお酒を』が久々のヒットになりました。この姿には驚かされました。その後も吉田拓郎作曲の『メランコリー』などのヒットを飛ばしました。
後年、彼女はテレビ番組のインタビューで、「アメリカで日系人の前で『こんにちは赤ちゃん』を歌ったら涙を流して聴いてくれた。この歌を長い間歌わなかったことを恥じ、後悔した」と語っていました。それからは積極的に歌うようにしたと言っていました。
歌手人生の前半と後半で全く違うイメージを見せてくれました。抜群の歌唱力で歌謡曲のみならずポップスやボサノヴァなど幅広い楽曲をこなしました。
遅くなりましたが、心よりご冥福をお祈りします。合掌
それでは今日はこの辺で。