監督:ジュゼッペ・トルナトーレ
主演:ティム・ロス、プルイット・テイラー・ヴィンス
音楽:エンニオ・モリコーネ
製作:1998年 イタリア 1999年日本公開
監督は『ニューシネマ・パラダイス』のジュゼッペ・トルナトーレ、音楽はやはりその時のコンビでエンニオ・モリコーネです。
4Kデジタル修復版です。イタリアのオリジナル160分版ではありません。120分版です。なぜこの映画が今頃リバイバル上映されたのかについては後述します。
あらすじを簡単に。生まれてから生涯一度も船を降りなかった、あるピアニストの物語です。
第二次世界大戦直後、トランペット奏者のマックスが楽器店にトランペットを売りに来ました。売った後、マックスは店主に最後にもう一度だけ吹かせてくれと頼みます。そして吹き始めると、聴いていた店主が店の奥から古いレコードを持ってきてそのレコードをかけます。するとマックスが吹いていた曲と同じ曲が流れてきました。店主はマックスに曲名と奏者を聞きます。するとマックスはこのレコードが存在するはずがない。どこで手に入れたのかと問います。店主は解体されることになった船から運び出されたピアノの中に隠してあった割れたレコードを修復したと話しました。マックスはその奏者の物語を語り始めました。
1900年、豪華客船ヴァージニアン号のピアノの上に赤ん坊が捨てられていました。それを見つけたのは黒人機関士のダニーでした。彼は赤ん坊にダニー・ブードマン・T.D.(Thanks Danny)レモン・1900」(ナインティーン・ハンドレッド)という名前を付け、船員たちによって大切に育てられました。ただ法律上は存在しない子供でした。
そして1900が8歳の時にダニーは事故で亡くなってしまいます。その葬儀の時に流れた音楽に惹かれ、1900はピアノを弾き始めました。その演奏は天才的で船長や客たちは大喜びです。
時が経ち、1927年1900は船酔いで苦しんでいるマックスに出会います。マックスはトランペット奏者で船上のバンドに雇われていました。二人はバンド演奏をするようになり親密になりました。1900の評判は陸の上にも届くようになりました。ある日、その評判を聞きつけたジャズを生んだと言われるピアニスト、ジェリー・ロール・モートンが客船に乗り込んできて、1900にピアノ対決を申し込んできました。しかし、1900の見事なピアノ演奏でモートンを打ち負かしました。
するとレコード会社から録音の申し出があり、1900が演奏を始め何気なく外を見やると窓の外に美しい少女を見かけます。1900はたちまちその少女に恋をし、その思いを曲に込めレコードは完成しましたが、1900は契約を破棄し、そのレコードを持ち去って少女を探します。しかし、結局レコードを渡すこともできずに、彼女は下船してしまいます。失恋した1900はレコードを割りごみ箱に捨ててしまいます。
その後も普段通り暮らしていましたが、1900はある日船を降りると言い出します。少女はかつて船で出会った男の娘だったのです。その男が言っていた「海の声」というものを聴きたかったのです。船員たちは驚きますが、それを歓迎しました。マックスたちに見送らながらタラップを降り始めますが、途中で立ち止まり、引き返してしまいます。1900はその後部屋に閉じこもり、自分の人生について考え詰めているようでした。やがて、マックスも船を降りる時が来て1900を誘いますが、彼は頑なに拒みます。
現在に戻り、港ではヴァージニアン号の解体が進んでいます。マックスは店主からヴァージニア号がダイナマイトで爆破されるという話を聞き、船内にはまだ1900がいるはずだと、レコードと蓄音機をもって船内に乗り込みます。しかし、いくら探しても見つかりません。マックスはレコードを流します。それでも姿を現しません。諦めかけた時人影を認めました。1900でした。マックは一緒に降りようと説得しますが、1900は「限られた数の鍵盤の上では生きられるが、無限にある鍵盤の上では自分はどうしたらいいのかわからない。船の上で一生を終える」と拒否します。マックスは納得したのか、一人で船を降ります。そして船は爆破されます。
話を聞いていた店主は「これから必要になるだろう」とトランペットをマックスに返し、見送ります。レコードの割れた原盤はマックスがそっとピアノの中に隠しておいたのでした。
自分はこの世に存在しない人間。船の中という限りある世界しか見たことが無い。それが巨大なビルが立ち並ぶニューヨークの街を目の前にして立ちすくむ1900。限りのない世界、終わりが見えない世界の中での生き方なんてわからない。自分の居場所は船の中にしかない、船の中で死ぬ。1900はそう思ったのでしょう。
こうとしか、またここでしか生きられない人生というものもあります。
この映画がどうして今頃劇場公開なのかなと思ったら、先日亡くなったエンニオ・モリコーネの追悼特集だったのです。この他に『鑑定士と顔のない依頼人』『ヘイトフル・エイト』『ある天文学者の恋文』『ニュー・シネマ・パラダイス』などが予定されています。
この映画でもモリコーネの音楽が映画を引き立てています。いや、彼の音楽無しにはこの映画は存在しえないでしょう。それくらい重要な役割を果たしています。
映画音楽というジャンルを築いた巨匠たちは近年続々と亡くなっています。寂しい限りですが、年齢を考えれば当然なのかもしれません。しかし彼らは亡くなっても音楽は残り続けます。これが芸術の素晴らしいところでしょう。
特に映画音楽はそのメロディを聴くだけで映画の場面を思い出し、さらにはその時の自分の周りの出来事や心境まで思い出させてくれるのです。今でも「マカロニ・ウェスタン」シリーズや「シシリアン」「赤いテント」などすぐにメロディが浮かびます。「本当に映画っていいですね」です。
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改めてご冥福をお祈りいたします。
それでは今日はこの辺で。